ダイアリーエッセイ:敬老の日、来年こそは2015年09月21日



母の庭には、毎年彼岸花が咲く。

その年の夏が、暑かろうと涼しかろうと、日照りが続こうが、長雨が続こうが、律儀にこの時期になると、こつ然と姿を現す。赤くにぎにぎしい花弁やしべを反り返らせて、窮屈そうに寄り固まって咲いている。


 

こんなに長生きしても、しょうがないねぇ。

一人じゃ何にもできないし、迷惑かけるばっかりで、だれの役にも、何の役にも立てなくて……。

 

92歳の母に、そんなふうにこぼされて、とっさに返事ができなかった。

そんなことないでしょ……とは言うものの、その先が出てこない。

 

〈ここにいて、そうやって息をしているだけで、私はうれしいわ〉

そう言ってあげるんだった。何も言えなかったことが、悲しくなる。

来年こそは、言ってあげよう。

だから、もう一年、長生きしてね。

 

私には、毎日が敬老の日。



 



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