オススメの本:石井健介著『見えない世界で見えてきたこと』2025年12月12日



 

この本を知ったのは、朝日新聞の読書欄に連載される「著者に会いたい」というコラムでした。

 

「ある朝、目を覚ましたら目が見えなくなっていた」

 

それは、映画や小説ではなく、著者の石井さんの身に起きたことです。彼はその日まで健康に過ごしてきた30代の男性。彼がつづったエッセイ集だというので、読んでみたいと思い、図書館で借りて読みました。

 

石井さんは、はじめは絶望の淵で泣き続けても、やがて自分を客観的に見つめるようになるのです。その心の動きを的確な言葉で表現しているので、エッセイとしても光っている。不条理な運命を嘆きながらも、自分を受け入れます。

さらに、新しい世界に飛び込んだようなワクワク感さえ抱きながら、生きるすべを、生きる場所を作り上げていく。

すごい人だと思いました。

 

あえて言わせてもらえば、私も障害児の母として、同じ社会的少数派です。その立場からも、共感しました。もちろん、彼とは違いが大きすぎるけれど、こういうとらえ方をして、価値観を見出して行けばいいのだ、と何度も膝を打ちました。石井さんの見えない目で見たことを読み、私は見える目からうろこがぽろぽろと落ちました。

 

石井さんは、その自身の名前から、みずからの行動を、石が転がるイメージで表現しています。私自身にも石を渡っていくイメージがある。そんな共通点も見つけて楽しめました。

そして、彼の自己肯定感や、適応能力の高さには驚かされます。そんな石井さんだからこそ、神様は彼を選んでこの病を与えたのだろうとさえ思えたのでした。

 

抽象的な推薦の文章です。あえて、具体的な本の内容、エピソードには触れていません。ぜひ、この本を手に取って、彼の言葉で、彼の文章で、この本の価値を感じていただきたいと思うので。

 

ちなみに、私がこの本を読むきっかけとなった新聞のコラムを書いた記者は、20205月に、わが家にやって来て取材をし、記事を書いてくれた田中陽子さんでした。本を読み終わって新聞記事を読みなおし、初めて気がついたのでした。

 

☆自閉症児の母として(65):朝日新聞の記事になりました! 
20200527日)



自閉症児の母として(82):新たな発見2025年12月23日


このシリーズは2年近く空きましたが、久しぶりの長男登場です。

1400字のエッセイとして書いたものです。

 

   

        ☆☆  新たな発見 ☆☆


自閉症の長男は、障害者のためのグループホームで生活を続けている。温かな理解に支えられ、現在のホームに入ってもう4年になる。

部屋は6畳ほどの広さだ。入居の際、自宅で使っていたテレビや本棚などのほかに、大型のエレクトーンも置くため、ベッドの下が有効利用できるような高さのあるベッドと、小さなデスクと椅子を、お手頃価格のN店で買って運び入れた。

 

2年ほど過ぎたある日、「椅子の脚が折れました」とホームから連絡を受けた。

1000円もしない「お手頃」以上?の値段の丸いパイプ椅子だったので、やっぱり、と思った。今度はもう少しがっしりした木製の四本脚に布製の座部が付いたスツールに買い換えた。

中肉中背の息子ではあるが、扱いが乱暴なのか、しょっちゅう持ち物が壊れたり、服や靴に穴が開いたりする。毎日たくさんの荷物をカバンに詰めて出勤し、ゆっくり歩くより走るほうが得意なほど活動的だ。しかも、服も持ち物も替えの数は少ないから、どうしても消耗が激しいのだろう。そう思ってあまり深く考えず、その都度買い替えていた。

ところが、先日、また椅子の脚が根元から折れたという。さすがに驚いた。まだ1年もたっていない。

翌日、彼の部屋に出かけていって折れた脚の断面を見ると、一見木材のように見えても、合板のような素材だった。しかし、N店の商品が粗悪とは思えないし、男性一人が座って壊れるはずもない。やはり息子の座り方が悪いのだろう。傾けて座っているのかも。

 

そういえば、と記憶がよみがえった。

数年前のこと、便座のふたの付け根部分に、亀裂が走っているのを見つけた。おかしい……、と思っているうちに、亀裂は大きくなり、あわててメーカーに電話して、新品のふたと交換してもらった。

犯人はおそらく長男だ。他の家族は心当たりがないと言う。彼に何を聞いても、「うーん」とあいまいな返答ばかりだったが、その表情からして、彼の仕業だろうと推測できた。背もたれのように、もたれかかったにちがいない。開閉以外の力がかかれば、壊れるのも無理はないだろう。

 

N店の椅子は1年間の保証期間内だったので、お客様センターに問い合わせてみた。電話口の女性は、

「お怪我はございませんでしたか」と、まず気遣いの言葉をくれた。

今後の参考にしたいので、壊れた椅子の写真を送ってほしい、と言う。

自宅ではなくグループホームに住んでいるため、すぐには難しいと事情を告げると、それでは宅配便で新品を届けるから、その場で壊れたほうを空いた箱に入れて引き取りたい、とのことだった。

ホームのスタッフに対応してもらい、椅子の交換は完了した。

N店には、お手頃以上の誠意を感じた。

 

息子の障害は、コミュニケーション障害ともいえる。人との付き合いがうまくできないのだ。おそらく彼は、物との付き合い方も下手なのだろう。

長男の子育て39年目にして、いまだに新たな気づきがある。さて次は、と楽しみに思えるようにまでなってきた。





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