しくしく痛くない?! ― 2012年07月31日
言い訳になりますが、毎年、4月から7月までは、東京農業大学短期大学部で「文章表現」の講義をもっています。前期だけですが、毎週のことで、気が抜けません。
今期もようやく15回の講義を終了し、あとは成績をつけるのみとなりました。
今期は女子ばかり8名。まさに自分の子どもたちと同年代。疲れの出る5時限目に、眠気をこらえてがんばっているのを見ると、ついつい母ごころが膨らんでしまうことも……。
それでも、自己表現の作文から、論理的な文章、敬語やエントリーシートの書き方まで、駆け足で講義しました。若くて柔らかい脳みそのどこかに、文章表現の大切さが刻まれたら、講義の意味はあったと思っています。
「履修してさっそく役に立ちました」
「作文に自信がついてきました」
……などなど、最後の日に、うれしい意見が聞けました。講師をやってよかった、と思う瞬間です。
印象に残ったエピソードをひとつご紹介します。
語彙を増やす目的で、オノマトペを取り上げたときのこと。
以前、外国人のための日本語教師をしていたときも、オノマトペは学生たちのお気に入りでした。擬音語、擬態語の類で、とくに体の痛みを訴えるときには重宝します。
頭が、ずきんと痛い。がんがん痛い。
肌が、ひりひり痛い。ちくっと痛い。
おなかが、ずきずき痛い。きりきり痛い。
「では、少しだけ、なんとなく痛いときは?」
「…………」
「しくしく痛い、って言うでしょう」
「……??」
「あら、言いませんか?」
「言いません……」
なんと、8名全員が、聞いたことさえないというのです。
「先生、しくしく泣く、でしょ!」
はあ、それもあるけれど……。
「どこか痛くなること自体、あんまりないし」
ショックでした。若い人たちは、言葉を知らなくて当然、痛みそのものを知らないのかもしれません。それにしても、おなかがしくしく、歯がしくしく痛むことはないのかしら。
その日、帰宅してわが子たちにも聞いてみました。
23歳の娘は、「知ってるけど、使わない」。
17歳の息子もやはり、「聞いたこともない」。
「しくしく」は、平成生まれのなかで、死語となっていくのでしょうか。
でも、ちょっと心配になります。
学生たちがやがて母親になるときに、痛みを医者に訴えることも出てくるでしょう。
しくしく痛くなったとき、彼女たちは何と表現するのでしょう。
「先生、なにげに痛むんです」とかなんとか言うのかしら……?
コメント
_ suzuking ― 2012/07/31 21:19
_ hitomi ― 2012/07/31 23:25
息子さんは、文学的センスをお持ちでいらっしゃる。それはお母様譲りとお見受けしましたよ。しくしくじゃなくて、くすくすと笑わせていただきました!
_ 村上 好 ― 2014/11/26 10:47
大学でも教えておられるのですか。
オノマトペという言葉は聞いたことはありますが、意味は理解していませんでした。
擬声語に対しては余り検討していません。自分の知識・感覚だけで使ってきました。読んでくださる方がどう受け取っているのか考えたこともありません。これから文章を書くときは配慮しようと思います。
英語の擬声語をまったく知りません。英語を書くときは擬声語を使えないわけです。それだけで私の書く英語はレベルの低いものだった筈です。文章道には課題が一杯です。ひとつずつ能力を磨いていきたいと思います。
Instructive なエッセイをありがとうございます。
村上 好
_ hitomi ― 2014/12/04 22:35
大学で教えていたのは、この年まででした。
オノマトペという言葉自体をまったく知らなくても、心を打つエッセイは書けますから、あまり意識なさらずに、「読み手にはどう受け取られるか」を念頭に置いて書いてみてください。読み手に自分の思いを伝えることがなにより大切だと思います。
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更新がないので何かあったのかと思ってました。
「しくしく」、17歳の息子に聞いてみましたら
やはり知っているけど使わないと。
では、「病院で何と説明するの?」と重ねて聞きましたら
「やる気がなくなる感じの痛さ」(!!)
…なるほどね、勉強しないのはどこか痛かったのね…。
楽しいトピックス、ありがとうございました。