直木賞受賞作『熱源』を読んで ― 2020年03月18日
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今年1月に第162回直木賞を受賞した川越宗一氏の長編小説である。
明治初期の文明の波を乗り越えようとするアイヌたちと、祖国の独立を願うポーランド人。樺太の地で出会い、やがてヨーロッパや東京、果ては南極大陸にまで出向いていき、人生を賭けた冒険の道を走り続ける壮大な物語だ。さらにそこに、明治の重鎮大隈重信、言語学者の金田一京助、作家の二葉亭四迷、南極探検家の白瀬中尉などなど、著名な人々が彼らと関わっていく。
「病気の種を体に入れるなんて、気持ち悪い」
そう言ってワクチンを拒んだアイヌの村人たちが、天然痘やコレラに、次々と感染して死んでいく。そのすさまじい場面には思わず目を覆いたくなった。
期せずして現在の人類もまた、未知のウィルスとの闘いを強いられているが、その比ではない。
また、祖国を奪ったロシア帝国に反逆罪で捕らえられ、残虐な拷問を受ける男たち。流刑地シベリアに送られ、家畜以下の扱いを受けてなお、生きることを諦めない。
私たちは、アイヌの何を知っていたと言えるだろうか。
社会主義が生まれるまでに、どれだけの血が流されたのか、何も知らない。
知らなかったということを、この小説はいとも簡単に教えてくれる。
読んでいて、けっしてつるつると腑に落ちる文体ではない。どこかユーモラスな文体で、何度も読み返しながら、時間をかけて物語と取り組む。それが苦ではなかった。なんとなく劇画調というか、コミック漫画を読んでいるような印象があったからかもしれない。
以前にも似たような印象の小説を読んだ。
真藤順丈著『宝島』。ちょうど1年前の直木賞受賞作である。
自分たちの祖国、故郷、家族、友達……それを奪うものとは、とことん戦おうとする。生き抜こうとする。そんな沖縄の人々を描いている。
どちらも、圧倒的な迫力だった。
(どちらの著者も同じ41歳。コミック世代なのだろうか?)
「熱源」とは、生きようとする力。私はそう読み取った。
どちらも、おススメの本です。