エッセイ教室へのお誘い ― 2020年09月03日
新型コロナ対策の自粛が長引いているうちに8月もあっという間に過ぎ去り、9月になりました。
6か月にわたって休講を続けてきた浜松のカルチャースクールも、ようやく再開へ。スクール側も、受講する皆さんも、出向く講師も、感染防止の対策を徹底して、2時間の講座を行います。
けっしてコロナが終息したわけではありません。まだ感染者は増えています。
それでも政府は、経済が立ち行かなくなるからと、GoToキャンペーンを開始しました。
私には時期尚早と思えましたが、立ち行かなくなるのは、何も観光業界に限ったことではありません。
カルチャースクールもしかりです。エッセイ講座の再開を待っている受講者の方々にとっても同じではないでしょうか。
あまり長引くと待ち疲れて、気持ちがなえてしまう。エッセイなんてもういいや、という思いになってしまう。
まして、若い世代の方なら、いくらでも再開を待てるでしょう。安全が確立されてから再開しても間に合います。また、リモートなどの新しい方法で、これまでの楽しみを続けることもできるでしょう。
でも、ご高齢の方には難しい。
(高齢者の領域に足を踏み入れた私自身の思いでもあります)
それこそが、私が一番危惧することです。
高齢者の楽しみを、不要不急などといって、軽んじてはなりません。
年を重ねていくこの時期こそ、社会との関わりを止めてはいけない。第二の人生を歩む今、趣味のお仲間と語り合い、触れ合い、楽しい時間を共有するということこそ、必要とされることではないでしょうか。
QOL、つまり人生の質を高めることに大きな役割を果たすのです。
そんなわけで、猛暑も峠を越し、再開にふさわしい9月になりました。
「エッセイの秋」に、あなたもエッセイの楽しさを味わってみませんか。
私が講師を務めるエッセイクラブ稲城では、お仲間を募っています。
☆活動日:毎月2回、第1金曜と第3金曜
第1金曜は、メンバーだけで自主的に合評をします。
第3金曜は、講師が出向きます。
☆場所:稲城市中央公民館
京王相模原線稲城駅から徒歩10分、JR南武線稲城長沼駅から徒歩15分。
無料駐車場もあります。
☆毎月1編の作品を書きます。
メンバー同士の合評と、講師からの講評とを参考にしながら、エッセイのコツを身につけて、作品を磨いていきます。
数年おきに作品集も刊行してきました。
☆稲城市民はもちろん、市外の方もご参加いただけます。
エッセイは初めてという方も大歓迎。時間外の特別指導で、原稿用紙の書き方から学んでいただきますので、ご安心ください。
☆月会費:2500円
入会の方は、初回は無料で、添削も致します。
☆お問い合わせ:042-350-0966(山本)
hitomi3kawasaki@gmail.com(石渡)
お気軽に見学だけでも結構です。ご連絡をお待ちしております。
この秋、新しい楽しみにふれてみませんか。
おススメの本、ディーリア・オーエンズ著『ザリガニの鳴くところ』 ― 2020年09月04日
コロナ対策の自粛生活のおかげで、本を読む時間が増え、いつもよりたくさん読めているだけではなく、いい本に巡り合っている気がします。
友人が回してくれる本はどれもすばらしい。いつか読もうと思って本棚に眠らせている本の中にもいいものがありました。じっくり味わう心の余裕があるのも一因かもしれません。
「2019年にアメリカで最も売れた本 600万部突破」
という新聞広告に目がとまりました。読者のコメントには、感動の言葉が並んでいます。これは面白いにちがいない、読んでみようと思ったのが、この本。さっそく電子本で読み始めました。
「湿地の少女」と呼ばれる主人公は、環境の悪い地域に暮らす貧しい階層の家族の末っ子でした。ある日、母が去り、姉たちも、仲の良かった兄も、最後まで残っていた父親までも家を出ていき、彼女は置き去りにされてしまいます。
それでも、温かい救いの手を差し伸べてくれるのは、黒人の夫婦。やはり差別の中で生きる人々でした。
孤児に教育を受けさせようと、役所の担当者が現れて、学校に連れていくのですが、[dog]のつづりも知らないのかと笑われ、二度と学校へは行きませんでした。彼女は幼いながらもプライドを持ち、自由であることを選択したのです。
たった一人で小屋に住み、孤独と闘いながらも、湿地の生物たちと友人のように心を交わします。とはいえ、ただのサバイバル小説ではありません。彼女は知性を持ち、字を覚えると、たちまちたくさんの本を読み、生物学的な知識を持った湿地の研究者に成長していくのでした。
やがて思春期を迎え、人並みに恋を知ります。それでも、宿命のように置き去りにされ、ふたたび孤独が訪れる。孤独と偏見と差別に苦しみながらも、彼女はけなげに生きて抜いて、一人の女性として自立していきます。
物語は、過去と現在を行き来しながら、もう一つの殺人事件を追っていくのです。その事件と彼女との関係が明らかになって、裁判へと発展していく頃には、読み手はがっちりと物語に捕らわれてしまい、もう逃げられない……。
叙情豊かな文章の中にも、陪審員裁判というリアルな現実が入り込んできて、その落差に揺さぶられるような読書感覚でした。
これだけ書いてしまっても、たいしたネタバレではないはずです。
アメリカの根強い人種差別問題などが盛り込まれ、しかも手に汗握るエンターテイメントとして十分読める。ベストセラーになった理由がわかりました。
ぜひ本をお手に取ってみてください。
読み終えるころには、こんな下手な紹介文で想像するよりも10倍面白かった、と言われることでしょう!
おススメの本、遠田潤子著『アンチェルの蝶』 ― 2020年09月05日
前回のおススメ本に続き、今回はこの本をおススメします。
ところで、『ザリガニの鳴くところ』の少女の母親が、なぜ子どもを置き去りにして家を出たのか。それは夫の暴力でした。子どもたちも父親に愛想をつかして出て行ってしまうのです。
この小説もまた、その部分が偶然にも同じでした。
物語は、主人公・藤太が大人になっている現在から始まります。痛む膝を引きずるようにして、ひとりで飲み屋をやっている。荒んだ雰囲気で、ときに強い酒をあおって酔いつぶれる。そんな藤太が、突然小学生の女の子を預かる羽目になる……。謎めいたストーリーを予感させます。
そして物語は過去へ。
藤太の父親も、酒に酔っては暴力をふるうどうしようもない男でした。母親が去り、父親と二人で暮らしながら、高校にも行かせてもらえない。飲んだくれの父親に代わって、小さな飲み屋を手伝わざるをえない。それでも父親は息子を殴る。どん底の暮らしでした。
中学生の藤太には、二人の親友がいました。同じクラスの優等生男子と、バレリーナを夢見る少女と。三人は固い友情で結ばれ、互いに信じあい、支えあいながら、中学校生活を続けるのです。
三人の共通点といえば、父親がひどすぎること。ろくに仕事もせず、賭け麻雀をしては、酒に酔い、とんでもない悪事に手を染めている……。
三人の絆の意味が少しずつ解明され、秘密めいた話の真実が明かされていきます。
それでも、暗く重い話の先に、藤太の明るい希望が見え隠れするのですが……
そこから先は、ご自身で読んでみてください。
三人の仲間も、藤太の店の常連たちも、暗い過去を抱え、世の中に背を向けているようでも、どこか正直にまっとうに生きたいと思っている。どん底から這い上がろうとしては、希望と絶望とに翻弄される。読み手は、そんな姿から目が離せない。もっともっと先を読みたくなるのです。
ちなみに、遠田潤子氏は、私が今一番注目している作家です。
今年上半期の直木賞でも『銀花の蔵』が候補になりました。いずれ受賞するのでは、と熱い期待を寄せています。
ダイアリーエッセイ:図書館の新兵器?! ― 2020年09月09日
私の人生、あまり図書館を利用してこなかった。
10年ぐらい前だったろうか。たまには覗いてみようかと、近くの図書館に行ってみた。その空気の悪さ、湿気とカビ臭さにぞっとした。手に取った本も汚れていて、気持ちがしぼんで、やっぱり足は遠のいた。
でも、最近になって、図書館を上手に利用している友人を見習い、お世話になろうと思い立った。高い本代もばかにならなくなってきたし……。
昨年の秋、市の図書館に登録すませ、新聞の書評欄で目に留まった本を借りようと、初めてネット予約を入れた。奥田英朗著『罪の轍』。およそ300人待ちだ。すぐに読みたいというわけでもないので、気長に待つことにした。
そして、その本をようやく手にしたのが、今日の午後。なんと11ヵ月もかかったのだ。さぞや手垢で汚れているのではないだろうかと、特にコロナ禍の今は、心配になる。
が、しかし。
カウンターから出口に向かう途中、思わず足を止めた。
「除菌BOX」!!
大型の電子レンジのような機械で、中の棚に本を置き、扉を閉めて待つこと45秒。紫外線が照射されて、本が除菌される、らしい。
懐疑的な私も、ちょっとだけ安心して、本を抱いて帰宅した。
このマシン、以前からあったのですか。
私は図書館の浦島太郎だったのでしょうか。
マシンの扉を開けたら、煙が出て、真っ白い髭が生えたりして……