ダイアリーエッセイ:オレだよ! ― 2014年06月07日
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私の母は、91歳。マンションの4軒隣で独り暮らしをしている。
部屋の中を歩くのがやっとで、わが家にはめったに来なくなった。
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ところが先日、朝の9時ごろやって来て、次男ヒロの部屋をのぞきこんだ。
「今、ヒロから電話があったのよ、品川にバイトに来てるって。……あら、まだ寝てるじゃない」
変な電話だったから怖くて……と震えている。
朝寝坊の息子が、朝からバイトなどするはずがない。品川にも用事はない。
「ケータイも荷物も失くしたんだけど、それを預かっている人からそっちに連絡があるから……とかなんとか」と、母の報告もよくわからない。
振り込め詐欺のニオイがする。いや、まだ未遂の段階。母が信用してしまったら、次の電話があったにちがいない。
「ほんとにヒロなの?って聞いたら、オレの声も忘れたのかよ、ってすごむのよ」
そうやって、年寄りの気を動転させておいて、〈本題〉に入るのだ。母が怪しんでいろいろと尋ねているうちに、時間がないからと向こうから電話を切ったらしい。
母の話では、こういう怪しい電話は日常茶飯事なのだという。でも今日のはなんだか怖かった、とおびえていた。
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最近は、次々と手の込んだ新手の振り込め詐欺が横行し、これだけ騒がれていても、被害額が上昇しているとのこと。ニセの警察からの電話だったり、ニセの警官が実際に現れたり。子を思う親の愛を悪用した犯罪が後を絶たない。
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それにしても不気味なのは、親元に電話があるならともかく、90代の独り暮らしの女性とその孫の名前とが、どこで結びついているのだろうか。
それとも、電話口で「オレだよ」と言われて、母が「ああ、ヒロ?」と思わず答えてしまっただけなのかもしれない。
いずれにしても怖い話。ご用心、ご用心。
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