ダイアリーエッセイ:よりによって、バレンタインデーに ― 2021年02月14日
もうすぐ午後1時半になろうとしている。ちょうど今頃、娘は上海の地に降り立ったのではなかろうか。
出発の日は、2月14日だと聞いていた。早めにチケットを予約したらしい。
「送りに行こうかな」と私が言うと、成田発9時台のフライトなので、前日は空港に泊まることにしたから、来なくていいと言う。
そういうことか。夫だけが空港で見送るのだ。
今日は、聖バレンタインデー。よりによって、そんな日にしばしの別れをするのである。しばしと言っても、コロナの今、1年は行き来ができないかもしれないではないか。
娘の転勤が決まったら、彼は「寂しくなるなあ」ばかりを口にするようになったという。それはそうだろう。新天地へ飛び立っていく娘に比べたら、残される彼は、どれだけ寂しさを味わうことか。
今日は、誰もいないわが家でひとり、お雛様を飾ってみた。
よりによって、娘が遠くなる時間帯に、わざわざ娘の思い出に浸ることなどしなくてもいいだろうに、当然のように涙が出てくる。
昨日まではあんなに強がっていたけれど、強がっていたって、応援していたって、寂しいものは寂しい。それが母親の気持ちというものだ。
そうだ、お姫様とお内裏様の二人を、くっつけて置いてあげよう。二人が早く再会できますようにと祈りを込めて……。
うりざね顔のお人形が、しょうゆ顔の娘夫婦に見えてきた。
そして聖バレンタインにも、二人の絆を見守ってください、と祈っておいた。
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