旅のエッセイ:ドライブin富良野(1) ― 2012年09月08日
北海道をレンタカーで走り回る、と話すと、誰もが本気で心配してくれた。
北海道は事故が多いのよ。
運転が荒っぽい、って聞くわ。
あちこちで取り締まりをやってるから、スピード違反でつかまらないように。
とにかく鹿の飛び出しだけは気をつけて……
車の運転は大好きだ。体も小さいし、かけっこもいまいちの私は、マシンを操り、車の力を借りて速く走ることが楽しいのだと思う。
自慢にはならないが、スピード違反でも、一時停止無視でも、シートベルト不着用でも、切符を切られて罰金を払った経験がある。
前が見えないほどの土砂降りや霧の中も走ったし、ジャッキで車体を持ち上げてチェーンを取り付けて走ったこともある。
いちばん怖かったのは、日暮れてから、降りしきる雪の東北道をノーマルタイヤでスリップしながらも走り抜けたこと。東京に着いて、雪が雨に変わって、なんてクリアな視界なんだろう、とほっとしたのを今でも覚えている。
それでも、今回の旅は出発まで緊張した。レンタカーを乗り回した経験だけは、皆無だったのである。
しかし、借りたホンダのフィット・ハイブリッドを、おそるおそる走らせてみると、想像以上に乗りやすかった。ただハイブリッドの特徴なのか、アクセルを踏む自分の足のほかに、もう1本別の足が車を動かしているような感触で、少し違和感がある。が、それもすぐに慣れると、あとは快適だった。
何も心配することはなかったのだ。市街地でも道は広いし、信号は少ないし、何より見通しがきく。道民の方には申し訳ないが、ここの運転に慣れたら、東京に帰って狭い街の中や首都高なんか走れなくなるかも……。別の心配がわいた。
トマムを出て、富良野へと向かう。
針葉樹林が続く。本州とは明らかに違う。木々も空も雲も……
でも、出会ったのは、鹿ではなく、路上でひかれた動物の死体。うす茶色で猫ほどの大きさ、耳がとがり、しっぽの先が白かった。キタキツネだ。
走りながら見た一瞬の光景が胸に突き刺さる。私には、100本の標識よりも、鮮烈な効果だった。
まっすぐな道。前後の車も遠く、すれ違う車も少ない。
畑、丘、広い広い空、ダイナミックな雲の群れ……
ハンドルを握りながらもそれらを存分に楽しむことができる。
湖にも出合った。
地図を見て、「金山湖」という名前がわかった。
看板も広告も、無機質なものは見えない。
車を降りて深呼吸。自然のままの景色も一緒に吸い込む。
助手席の娘は、ナビをしながら、もっぱら写真を撮る。
いくら運転が上手とはいえない彼女でも、ここなら問題なさそうだが、私が交代しないのには、わけがある。私が車に酔うのである。自分で運転しているかぎりなんでもないのに、助手席でナビ&写真係を始めたら、途端に頭痛が始まるのは目に見えている。私の三半規管は繊細にできているのだ。
娘もそれがわかっているので、助手席に甘んじてくれている。
ふと、聞いてみた。「この矢印、なんだか知ってる?」
写真中央の下向きの赤白の矢印。
娘は知らないという。
ここまでが道ですよ、と教えてくれる路肩標識。つまり、冬には辺り一面雪が積もっている、というわけだ。想像力をかきたててみる。
富良野市街に入る。
まず、目的地の新富良野プリンスホテルに車を止めた。
〈続く〉
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