自閉症児の母として(9):新しいこだわりに困惑中…… ― 2013年03月03日
新しい、といっても、ここ2、3年になるだろうか。
自閉症の長男モトが、私のエプロンを嫌うようになった。
いちおう主婦のはしくれだから、家事をするときは、たいていエプロンをする。
夏だけは暑いので、汚れてもすぐに洗えるTシャツを着て、エプロンはしない。
反対に、冬は防寒も兼ねて、割烹前掛けをする。とはいっても、昭和のお母さんではないので、胸元にレースの付いた白いのではなく、ちょっとはおしゃれに花柄のリバティープリントである。
12月のある日、急に寒くなって、そのエプロンを出して着けたら、モトが言った。
まあ、なぜ?? お料理をすれば汚れるし、寒いから、エプロンをしてるのよ。
茶系の小花模様のエプロンのどこが、何が気に入らないのだろう……。
そこで、思い立って「若いママ風」のピンクのエプロンを買ってみた。
やっぱり言われてしまった。ということは、どんなエプロンをつけようが、エプロン姿そのものが嫌いということになる。
ときどき、すれ違いざまに、無言でエプロンの端を引っぱる。
食器洗いの手伝いをするときには、わざと「じゃあ、エプロン貸して」と、私のエプロンを横取りしようとする。
実際に私が着用しているのをむりやり外して、着たこともある。あまりにもツンツルテンで、吹き出してしまったが、彼は怒ったような顔をして、黙々と洗い物を続けていた。
かなり神経質に、私のエプロンにこだわっているのが見て取れる。
エプロンつけて、あくせく家事なんかしてないで、遊んでいるママがいいのよね。
わからないではないけれど……
「寒さ対策です」
ちょっとちょっと、それは私の理由です。
お笑いのボケと突っ込みじゃないんだからね……。
いったい、どうして?? わからないまま時が過ぎた。
ところが、最近になって、その謎のこだわりの解明に迫ったのは、意外にも、めったに自宅にいない娘だった。
〈続く〉
ダイアリー・エッセイ:沈丁花が咲いたら ― 2013年03月05日
昔の人は、うまいことを言ったものだ。
起きていると、日数のたつのが遅いこと遅いこと。
わが家の次男が、センター試験の日に、受験という荒海に船出をしてから、ようやく45日がたった。
365日の上乗せをしないことだけは決まったが、まだ最終決着はつかず、漂流中。
卒業はしたものの進学先の決まらない彼が、
「オレ、今、ニートだよ……」とつぶやく。
私はといえば、頭痛、胃痛、関節痛、肩こり……etc.
精神的ストレスで、体のあちこちが悲鳴を上げている。
庭の日かげの沈丁花、つぼみの紅色が一段と濃くなった。
甘い香りとともに白い花びらを見せるころには、わが家にも本当の春が来てくれるだろう。
それを信じて、さて、もうしばらくの冬眠だ。
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前回の〈続き〉は、謎解きの確証を得たうえで、公開したいと思っています。
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自閉症児の母として(10):新しいこだわりの謎を解く ― 2013年03月07日
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娘の推理はこうである。
しかも、4年前から喫茶室に勤めるようになり、ユニフォームのエプロンも着けている。おそらく、休憩時間はそれを外して過ごすように、決められているのではないか。
そんな彼にしてみれば、母親が料理をしているわけでもないのに、食事中もパソコン中もだらしな~くエプロンを着けているのは、花柄だろうがピンク色だろうが、ルール違反というもの。容認できないにちがいない――。
それを確認するために、今日は職場におじゃまして、チーフにエプロン着用について聞いてみた。
「休憩時間も、トイレに行くときも、勤務から離れるときは、かならずエプロンは外しています。私たちも例外なく従業員全員ですよ」
予想どおりの答えが返ってきた。
「だったら、料理と食器洗いのとき以外はエプロンを取りますって、そう言えばいいのに」
彼は黙っている。でも、その表情には、やっとわかってもらえた、という安堵感が浮かんでいた。
モトは、ニュース解説のような難しい言葉や、スポーツの実況中継さながらの言い回しは使えても、自分自身の言葉で、自分の思いを説明することができないのである。
改めて、自閉症というコミュニケーションの障がいを見せつけられた気がした。
しかし、そのルールを心のよりどころにするあまり、例外を嫌い、突発的な変更に動揺する。
モトの〈こだわり〉にこだわることを、もう少し続けたいと思います。
また次回、お付き合いください。
ダイアリー・エッセイ:沈丁花が咲いたので ― 2013年03月08日
次男の第一志望校の合格発表の日。
朝、庭の日かげの沈丁花が咲いていた。これは幸先がいい!
めざましテレビの星占い、なんと次男のやぎ座が1位! ますますうれしくなる。占いは信じない私だが、長年見続けているこの星占いだけは、面白がって一喜一憂してきた。
キャンパスの掲示板に、合格者の受験番号が発表されるのは正午。
ぎりぎりまで朝寝坊を決め込んで、あわてて出かけていく次男の後ろからくっついていった。
期待どおり、予兆どおり、そこに彼の番号があった……!!!
応援してくれたたくさんの人に報告をする。だれもが喜んでくれる。
おめでとう!
よかったね!
たくさんの言葉をいただく。
その喜びの気持ち一つひとつ、その祝いの言葉一つひとつが、花のように咲き誇る。
ああ、たくさんの花が咲いたこの時こそ、これが春!
とうとうわが家に春が来た。
思えば、中高一貫校の5年までは、心労の日々だった。
このままでは進級できないと、学校に呼び出され、担任の先生の親身のお説教に、私が泣いたこともあった。
1年前は、とてもとても無理と思われるような志望校。理想は高くていいんです、と言われて、恥ずかしながらも第一志望校の欄に書き込んだのだった。
その彼が、本気のスイッチをガチャンと入れて、短距離走者のように走り抜け、駆け上り、見事その大学にゴールインしてしまったのである。
だからこそ喜びもひとしお。
息子よ、本当によくがんばったね。おめでとう。
自閉症児の母として(11):こだわりバトル! ― 2013年03月19日
お父さん、お母さん。パパ、ママ。おやじ、おふくろ……。
そして、当然のようにそれが子どもたち3人の呼び方となりました。
もうかれこれ4、5年前になるでしょうか。モトが何か気に入らないことがあって、ご機嫌斜めのときでした。
私が、夫に「お父さん!」と声をかけました。
すると、モトが、
それからというもの、私が「お父さん」というたびに、そばで「お父さんじゃないでしょ、パパ!」
と独り言のようにつぶやくようになりました。
自分を指して「母さん」という時も同様で、「違うよ、ママだよ」とダメ出しがある。しかも、私が不機嫌なときに限って。敏感な彼にはそれがわかるのでしょう。何かこごとを言おうとしているのを察知したかのように。
真剣な話をしようとしているときにでさえ、私が不機嫌なのだと受け取られ、彼のチェックが入るのはたまりません。
そのたびに、私はイラッとする。なおさら「パパ」なんて口が曲がっても言えないと思う。さらに私の不機嫌はエスカレートする……という具合。
現在も、それは続いていて、たびたび私の神経は逆なでされています。とくに、家族がそろう休みの日は最悪……。
自分が何歳になろうと、ママはいくつになってもママで、パパは死んでもパパ。
呼び方の変化は、単なる言葉というより、うちに含まれる感情の変化でもあるのです。
たかが言葉、されど言葉。「パパ、ママ」とは言わない。これは、私のこだわりです。
母親が譲らないでどうする、おとなげない、とも思います。
でも、気持ち的にとっくに子離れしている私には、もう我慢をする気になれない。くつろぐはずの家庭で、四六時中我慢を強いられるのはもう御免。
モトも不快だろうけど、私もすごくいやだな……。
意地っ張りどうし、さてどうしたらいいのでしょうね。
家族はみな互いに名前で呼ぶ、というルールにでもしましょうか。
銀座コミュニケーション・プレイスのご案内 ― 2013年03月23日
銀座三越のデンマーク・ザ・ロイヤルカフェで行われます。
長いことお休みをいただきましたが、この春、5月28日に再スタートします。
感想を話し合ってみましょう。
そこから、書く楽しさにつなげてみましょう。
エッセイを書いてお持ちくださっても大歓迎。作品を皆さんで読み合いましょう。
新しい出会いと、楽しい会話と、とっておきの美味しい料理が、お待ちしています。
新しいエッセイ教室in横浜 ― 2013年03月27日
春です。
新しいことを始めてみたいと思いませんか。
エッセイを書いてみる……というのはいかがでしょう。
なかなか独りでは続かなくても、お仲間がいると、やる気が出るものです。
講座名:エッセイを書いてみませんか
主催及び場所:横浜市金沢区 並木コミュニティハウス
日時:原則として、第1・第3土曜日の午前10時から12時まで
参加費:全10回分で、3700円
講師:石渡ひとみ
もちろん、まったく初めての方、大歓迎です。
または、 hitomi3kawasaki@gmail.com まで。
詳細は、横浜市のお知らせのサイトをご覧ください。そちらからも申込みができます。
この春、新しい出会いを求めて、エッセイを始めてみませんか。
お待ちしています。