旅のフォトエッセイ:東松島へ(4)~それぞれの家は~2013年06月06日


「あの辺に、市民公園があってね、桜の木がたくさんあって、お花見してたの」
二人が指さす先には、何もない。わずかに残された松の木が、並んでいるだけ。
私たちと同じように、子育てのときには何家族も集まって、桜の木の下にシートを敷いて、大人たちは酒盛りをして、子どもたちははしゃぎまわって……。
目を閉じれば、そんな光景が見えてくる。でも、目を開けたら、何もない。


「ああ、ここだ、やっとわかった!」
わずかに家の土台が残っていたり、門柱の跡が残っていたり……。それさえも、雑草が生えてきて、わかりにくくしている。
それでも、清美さんにはわかった。自分の家があった場所が。

さいわい、千佳子さんの家は、海から離れていたので、流されはしなかったが、床上1メートルぐらいまで、泥が流れ込んだという。
「初めて戻ってみたら、どこも泥だらけで、冷蔵庫が倒れてたわ」
どれだけ大変だったろうか。
「でも、うちだけじゃなかったから。みんな同じだったから、何とかがんばれたのよ」


千佳子さんの家は、2度リフォームをして以前のように住めるようになった。
リビングまでおじゃましたけれど、被害の跡形もなく、きれいに片付いていた。
(わが家よりずっときれいだった……)
ピンク色の「ぷりん」は、千佳子さんの美容室。もう営業はしていない。
名前の由来は……プリンが好きだったから? プリンセスだったから?
今度会ったら、聞いてみよう。


大曲浜は地盤が沈下して、いたるところで水が引かなくなった。池に囲まれてしまった家は、重機が近寄れず、撤去もできないままになっている。


「これ、カズちゃんの実家。まるで、金閣寺だよね」
そう言って、二人はカラカラと笑った。私たちもつられて笑ってしまう。
和子さんも、のり工房のメンバーだ。実家で立派な家を建てたばかりだったという。近代的な工法の家の構えは、津波の猛威にも流されなかったのに、だからこそ無残な姿をさらすことになってしまった。
カズちゃんはどんな思いで、2年もの間、この姿を見ているのだろう。

清美さんも、千佳子さんも、和子さんも、じつに明るい。屈託なくよく笑う。
だから、一緒に笑う。私はみんなが大好きだ。
だから、「行くよ~!」と、押しかけてきたのだ。

彼女たちの乾いた笑い声を聞きながら、ふっと自分のことを思った。
私も、「明るいね」と言われる。障がい児の母なのにね。
26歳の長男は、自閉症という障がいを持っている。たくさんの人々に支えられて、ここまでやってきた。落ち込んではいられない。暗くなんかしていられないのだ。
でも、人知れず泣いた。何度も、何度も……。
その時があったからこそ今がある。少しは強くなった。明日を信じて楽しく生きていける。

彼女たちを、私と同じというつもりはない。
息子は命に関わる障がいではなかった。命を燃やして成長し続ける存在でいてくれた。
しかし、彼女たちは、未曽有の災害の恐怖にさらされ、生死の境に立った。かけがえのない人々の命を奪われた。培ってきた家や仕事場や財産を失くした。
どれだけの涙を流したことだろう。どれだけの絶望を味わったことだろうか。
2年がたった今だからこそ、それを乗り越えて、笑えるようになったのかもしれない、と思う。

たしかに、同じ体験をしないかぎり、その気持ちを完全に理解することはできない。
でも、できる限りの想像をしてみる。気持ちに沿ってみる。
それが、愛でしょ、愛。

キザな結論に至ったところで、この続きは、また次回。
次回からは、復興に向けて明るく……!

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ここで、お知らせ!
明日7日から3日間、東松島の美味しいものたちが、東京にやってきます。
調布市で開催される「日本陸上競技選手権大会」会場の味の素スタジアム内で、東松島市ブースが出店されます。
牛たんつくねやスペアリブ、海産物なら炙りイカに炙りホタテ、そして、きゅうりの一本漬けなどなど。ぜひ、この物産展でお求めください! 
当日は、元漁師さんがその場で焼いてくれますよ。



そして、清美さんも、8日・9日に「のり工房矢本」を引っ提げてお出ましです。
私も9日にお手伝い参上の予定です。
皆さん、味スタでお会いしましょう!



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