2000字エッセイ:ジョニーの第二の人生は2014年01月29日

☆昨日のお約束どおり、20字×20行の縦書きを、そのまま貼り付けてお読みいただくことにしましょう。
******************************************

 
  ジョニーの第二の人生は

 十年間、忠実な相棒だった私の車は、ホンダのオデッセイ。ベージュ色の七人乗りワンボックスカーで、ナンバーは7373。その名を「なみなみジョニー」と呼んだ。桑田佳祐の曲「波乗りジョニー」のパロディだ。走行距離、三万五千キロ足らず。定期点検を欠かさず、エンジンも快調。まだまだ乗り続けるつもりだった。
 ところが、最近になって、九十歳の母の足となる機会がめっきり増えた。すると、車の床が高く、乗り降りの難しさが気になりだした。そろそろ、買い替え時なのだろうか。ふと考えるようになる。
 時を同じくして、「近日、ニュー・オデッセイ誕生!」の情報を耳にする。じつは、ジョニーの前の車も、オデッセイだった。わが家は、セカンドカーも含めて全七台、ずっとホンダ車を乗り継いでいる。なぜか好きなのだ。あえて言えば、初代オデッセイが発売された時、CMにアダムス・ファミリーが登場し、長い黒髪の妖艶な母親と、車を這い回る赤ちゃんが、私のハートをとらえた。次男もまだ赤ちゃんのころで、わが家にピッタリな気がしたのである。
 そんなわけで、ニュー・オデッセイと聞いて、購入へ心の針が傾く。しかも、初のスライド式ドアで、ステップが低いとなれば、母を乗せるにはおあつらえ向きではないか。
 そこへ、さらなる偶然が舞い降りてきた。ボランティア仲間のモロさんからの情報で、アフリカのケニアで支援活動をしている日本人が、救急車代わりの車を探している、というのだ。モロさんも国際的な活動でケニアにおもむき、そこで塩尻さんと知り合った。
 彼は、一九九〇年にケニアの貧しい農村に家族ぐるみで移り住む。以来、現地の人々の支援に力を注ぎ、エイズ孤児のための施設や、診療所などを開設してきた。ところが、彼の車はすでに三十五万キロを走破。車体もボロボロで、いよいよ次の車を準備しなければならなくなったのだという。
 この話を聞いたとき、ジョニーの第二の人生が見えた気がした。新車と引き換えに引き取られていく先は、スクラップ工場ではなく、アフリカの大地。しかも、救急車となって活躍するのだ。こんなに素敵な話はない。
 この偶然は神様の仕掛けだ。わが家がオデッセイを買い替えれば、みんなが幸せになれる。セレンディピティという言葉が浮かぶ。
 すぐにモロさんに車の提供を申し出ると、塩尻さんはとても喜んでくれた。ところが、現地で受け入れ手続きをしようとする彼の前に、哀しい現実が立ちはだかった。ケニアには、八年以上たった車の持ち込みを禁止する法律があるのだそうだ。ジョニーは製造から十年になる。それでも彼は、隣国のタンザニアかウガンダでナンバー登録し、そこからケニアに持ち込むことを考えた。しかし、それもまた月々の手数料がかかる。輸送費、税金、今後の諸費用などを合わせると、莫大な資金が必要になる。塩尻さんは涙をのんで、私の申し出を断念せざるを得なかったのである。
 ジョニーがもう二歳若ければ、塩尻さんのところに行けたかもしれないのに……。アフリカは国によって様々な規制が多く、外国からの支援を難しくしていると聞く。彼がアフリカを疾走する夢は、八年規制の壁の前に消え去った。残念のひとことだった。

 しかし、神様の仕掛けには続きがあった。
「じつは、もう一人、車を探している人がいるんですよ」とモロさんが言う。
 もうひとつのジョニーの身の振り方。それは東北の被災地で活躍することだった。そして、ジョニーを譲り受けたいという人物は、岩手県陸前高田を拠点に支援活動を続けるリエさん、私もよく知っている女性だったのである。以前にも、チャリティバザーの物品を運んだり、養護施設の子どもたちの送り迎えをしたりして、ジョニーがお手伝いしたことがあるのだ。またも偶然が微笑んでいた。
 今度こそ、話はとんとん拍子で進み、ジョニーはリエさんのもとにもらわれることになった。仮設住宅の子どもたちを、遠くの学校まで送迎するのに使いたいという。
 別れの日、ガソリンスタンドで丁寧に掃除をしてもらい、ガソリンも満タンにした。
「こんなにきれいな車なら、オークションでも高く売れますよ」
 寄付すると聞いて、従業員がそう言った。そんなジョニーだからこそ、安心して提供できるのだ、と誇らしかった。
 さよなら、ジョニー。十年間、ありがとう。被災地の人々に寄り添って、第二の人生を、元気に走り抜いて!
 かくして、わが家はニュー・オデッセイを買い入れた。母の乗り降りも、少し楽になったようである。


☆日本ブログ村のランキングに参加しています。
ぽちっとクリック
してください。
どうもありがとうございます!



copyright © 2011-2021 hitomi kawasaki