自閉症児の母として(48):リラックスしようか、モト君。 ― 2018年06月05日
息子は、いろいろと課題を抱えながらも、がんばっています。職場の支援員の方がた、神経科のドクター、子どものころからお世話になっている自閉症専門の先生がた……。本当にたくさんの人々に支えられて、自立に向けて歩んでいます。
1年前から、「桜の風」という支援施設で月に一度、1泊体験を続けてきました。さらに、半年前からはもう一つ別の施設でも宿泊体験を始めています。
グループホームの一部屋を提供してもらい、そこから職場に通うという、息子にとっては新しい体験です。
ホームから最寄りのバス停まで徒歩10分、住宅街を歩きます。まったく初めての土地なので、事前に何回か一緒に往復して、道を覚えさせるところから始めました。2回目の時は、曲がる角をまっすぐ行こうとして、ちょっと心配でしたが、それでも数回で覚えてくれました。
次は、職場からバス停まで歩く。これも10分以上かかります。でもそこは、いつも勝手知ったる隣町。途中からは私が後ろからついて歩いていることも忘れて、どんどんスピードを上げて先に行ってしまいました。
ようやく歩道橋で追いつき、上りかけた息子に声をかけると、振り向いて笑った。ああ、一緒にいたの忘れてたよー、という顔で。
ちょっぴり寂しい気がしたけれど、ほっとした瞬間でもありました。もうこの子は大丈夫、と。
そして、今月からは、2泊することにしました。大きなリュックにバスタオルや着替え、ゲーム機に攻略本などなど、ずしりと重い荷物を詰め込みます。この準備も、ほとんど自分でそろえる。前回忘れたものはきちんと覚えていて、言われなくても、てきぱきと荷造りをする。もうすっかり身辺自立はできているようです。
今朝、明日の雨に備えて、大きめの折り畳み傘をリュックに入れて、出勤していきました。夕方、仕事帰りにホームへ直行。2泊3日の体験です。
息子が出かけて行ったあと、ふと気が付くと、トースターの中に、焼けたままのピザトーストが残っていました。
彼の毎日の朝食は、たいてい自分でピザトーストを作って食べます。トーストのほかにも、いろいろな種類のパン、果物、ヨーグルトなど、日によって私が用意したもの、昨晩の残りものなど、眠気覚ましのコーヒーとともに、たくさん食べるのです。
今朝も、ピザトーストを焼いている間に、シナモンロールとチーズ塩パン、デコポンを食べていましたが、それで満足してしまったとは思えません。
おそらく、忘れてしまうほど、緊張していたのでしょう。
そう思うと、母の胸はせつなくなります。
一見、何でもないように見えても、どれほどの緊張を感じていることか。その分かりにくさも自閉症の一つの特徴です。そして、それをストレスとして自覚できず、したがって自分でストレスを発散することも難しい。
そんなことも、つい先日、自閉症に詳しい先生から、改めて教わりました。なるほどと思います。
2泊3日の宿泊体験が終わったら、きっと緊張の連続で疲れて帰ってくることだろう。どんな方法で、彼の緊張を解いてあげよう。何が、息子の気晴らしになるのだろうか……。
31歳の自閉症者の母として、新たな課題でもあるのです。
自閉症児の母として(49):NHKさん、どーも! ― 2018年06月10日
息子は、子どものころから、NHKのテレビ情報誌「週刊ステラ」を毎週欠かさず買っている。おそらく、「みんなのうた」や「おかあさんといっしょ」の番組からの興味で、創刊号から買い始めたのだと記憶する。
ちなみに、何歳から買っているのか、息子に聞いてみた。
「4歳かな~」
ウィキペディアで調べてみた。創刊は1990年5月23日。確かに彼は4歳だった。今から28年前である。ざっと数えても、年に約50回発行されるから、創刊号から1400冊ほどを購読してきた計算になる。
NHKから表彰されてもいいのでは、と思う。
いつ頃からだったか、クロスワードパズルが掲載されていて、息子はマス目を埋めるようになる。とはいえ一人では完成できず、週末には家にいる娘が、よく助け舟を出していた。
3年前の夏、娘が家を離れた翌週から、その役目が私に回ってきた。息子が自分で書きこんだ部分を見ると、難しい四文字熟語を答えていたり、流行りの言葉を知っていたり、と思えば、ヒントのやさしい漢字が読めなかったりと、彼の知識の偏りがおもしろい。
すべてが埋まったところで、指定されたマスの文字を拾ってクイズの答えがわかると、「できたー!」と満足するのだった。
そのパズルが、この4月から、ナンバープレースに替わってしまった。数独のクイズである。私はクロスワードのほうが断然好きだ。語彙がひらめくと自己満足に浸れる。数独は、時間をかけて解いていけば、かならず正解にたどり着けるはずだ、と高をくくっていた。
仕方がない、息子に付き合おう。彼こそ数字には強いから、解き方のコツさえ覚えれば、すぐに一人で解けるようになるだろう。
案の定、初回からルールを飲み込んだ。9つの四角の中と、縦と横の列の中に9つの数字がダブらないこと。それだけだ。
そのうちに、私より先に答えを書き込むようになり、やがて何回目かにはほぼ一人で仕上げてしまった。ナンプレ自立である。
ふと見ると、
「正解者の中から抽選で3人に、以下のプレゼントを差し上げます」
おなじみの文句が目に入った。せっかくだから、初応募してみようか。
「西郷どん どーもくん手ぬぐい」だって、いいじゃない。
はがきに、住所・氏名・年齢など必要項目を書かせて、投函する。
そして1ヵ月が過ぎた今日になって、届いたのである。
NHKステラと書かれた、ふにゃふにゃした分厚い封筒が。
Congratulations モト様!
厳選の結果、貴方様が当選されました。
ステラの誌上発表によれば、当選倍率67倍とある。私はそのあたりの規約には詳しくないのだが、ひょっとしたら、抽選ではなく、特別に選んでもらったのではないか、と密かに思った。
応募はがきの項目の最後は、「本誌へのご意見・ご感想など」だった。そこに、ステラと息子の28年の歴史を、母の手で書き込んだのである。
それを読んだ編集部の方が、一人の障害者を応援してくれた。いや、長年の購読者への感謝の気持ちかもしれない。
いずれにしても、私は素直にうれしい。私たち親子を支えてくれる人に、また出会えた。息子のことでメソメソしてばかりの近ごろの私には、何よりの励ましのプレゼントだった。
NHKさん、どーも!
やったね、モト君!
「半端ないって」どう思う? ― 2018年06月30日
サッカーワールドカップ、盛り上がってきました。
わが家もご多分にもれず、今週は寝不足状態が続いています。長男は職場で居眠りして、厳重注意のイエローカードをもらってしまいました。
(その母である私は、朝食後こっそり朝寝をしたなどと、口が裂けても言えません)
コロンビア戦で勝ち越し点を決めた大迫選手をたたえるあのフレーズ、
「大迫、半端ないって!」
が、私たちエッセイ仲間で、話題になっています。
どうしても気持ち悪いという人が多い。言葉遣いの問題です。
え、何が問題?と思う方は、きっとお若いのでしょう。
本来は、「半端ではない」というべきです。
話し言葉だとしても、「半端じゃない」となりますね。
それが、若い世代で簡略化されて、「半端ない」となった。
私個人としては、若ぶっているわけではないけれど、会話では使っていたような気がします。
現時点でも、今年の流行語大賞の有力候補となっているようですから、この先の決勝トーナメントでも大迫選手の活躍に合わせて、「半端ない!」が市民権を得る日が来るかもしれませんね。
言葉は、時代の流れの中で変容する生き物です。進化するか退化するかは、私たち現代人の使い方にかかっています。大切に育てなければなりません。
ところで、海外メディアでも大迫選手をめぐる「hampanai」という褒め言葉を紹介しているそうです。英訳すれば、awesome、incredible、つまり、すごい、すごくいい、というわけです。
かつて、「もったいない」がエコを象徴する言葉として世界に紹介されたように、こちらも海外進出するのでしょうか。
日本代表チームの健闘ぶりはもちろん、この言葉にも注目していきたいと思っています。
▲二子玉川駅の近くに並んでいた厚さ3センチの選手たち。
がんばれ、ニッポン!!