おススメの本、恩田陸著『薔薇のなかの蛇』2022年02月20日


 久しぶりに本の紹介です。

この本は、地元の図書館に予約を入れてから、8ヵ月後にやっと手元に届いたのです。なぜ読んでみようと思ったのか、どんな内容なのかもすっかり忘れていました。人気があることだけは確かです。たぶん私も、恩田さんの本ならおもしろいに違いないと思って、予約して待ち続けたのでしょう。




あえて、情報を持たないままで本を手に取りました。

表紙には、血のような深紅の薔薇、レンガ造りの館と、女性が一人、花の上に載っている。よく見ると、茎には緑色の蛇が……。

いかにもいわくありげな雰囲気で、誘われます。

おもむろに、目次のページを開くと、暗い靄に覆われた木々と館の絵とともに、10章の見出しはすべてカタカナ言葉。各章の扉のページにも同じ作者の絵がモノクロで挟まれている。序章を読み始めて、ようやく物語は異国、イギリスだとわかってきます。しかも、ストーンヘンジからもほど近い、巨石の並ぶ遺跡の中の村。人間のような大きな石がえんえんと続き、そこに暗く重い霧が立ち込めている……。なんとも不気味な、おどろおどろしい事件の起こりそうな……と思ったとたん、さっそく始まりました。

祭壇のような巨岩の上に、まるでいけにえのように置かれていたのは、頭と手足のない胴体。それも上下に切り分けられ……。

 

むごたらしい話は嫌いです。読むのをやめようか、とも思いました。

でも、イギリス人らしい男性二人が会話をするシーンは、文字どおり血なまぐさい話がドライなタッチで描かれて、しかも状況説明がわかりやすい。安心して読み続けました。

章が移ると、またまた興味をそそられるアイテムがたくさん。古めかしい館、落ちぶれた貴族、黒マントの人物、一族に引き継がれる「聖杯」、ハロウィンナイトの誕生会……。とはいえ、現代の話なのですから、時代錯誤を逆手にとって興味をそそります。

アーサー、デイヴ、アリスのきょうだいも、彼らの父親も、叔父たちも、日本人女性のリセも、それぞれに個性的で、魅力的。心理描写も、ウィットに富んだセリフも、イギリス映画を見ているような気分を味わいながら、謎の殺人と、脅迫と、失踪と、これでもかというくらいどんどん出てくる不可解なミステリーの渦に、どっぷりと浸かってしまいました。

終盤になって、ようやく謎解きが始まります。意外な展開の爽快さにも、心が躍りました。

 

ちょうど、ワクチン接種の直後で、副反応に備えて家にこもることにしていました。本は、スローな私でも、ほぼ一日で読了しました。

ああ、おもしろかった!のひとこと。久しぶりに、難しいことは考えずに楽しむだけの読書ができた気がします。

そんな読書がしたい方、おススメです。

 

ちなみに、この本は恩田さんの理瀬シリーズ全8作の最新作だそうです。読んだ後に得た情報で、それを知らなくても、この本だけでも完結していて楽しめます。

これから、前作を順番に読む楽しみもできました。


 


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